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あの方を目にすることなんて唯の一度もないんだろうな。
分かりきっているからこそ悔しくて、底の底まで悲しい。
来るべき明日への絶望を。
今日からまた逃げる羽目になるよ。
唯、惨めに。
逃避十日目(最終日)
明日に日付が変わった頃、青い鳥を迎えに行こうと思う。
十日間、止まった時間の中で過ごしていた。
毎日毎日同じことを繰り返すだけの、至極単調で惨めな現実を思い出すには十分すぎる期間だった。
人との繋がりなど最早あの場所の外には存在せず、
時間さえもあの中にだけ流れている。
それなのに、他人の日常に触れれば触れるほど自分のあまりにも狭い世界が浮き彫りにされ、こうして逃げる羽目になる。
唯一の居場所から目を背ける……それはとても辛いことだが、悔しさには耐えられない……。
そう、悔しくて、悲しくて、仕方がない。
ふた月ほどすれば再び青い鳥を手放す時が来る。
私は同じ世界を見ることができないから、目の前を通り過ぎてゆく幻から、逃げるために。
逃避七日目
きっとこれが、青い鳥が飛び去ったあとの世界なのだろう。
狭すぎる箱の中でただ呼吸し、変わることのない始まりと
終わりを繰り返す。
人との関わりなど皆無、纏わりつくのは「家族」とかいう
ハイエナ共、それが全て。
クソだな。
でも、四日経った辺りから慣れてきたよ。
そうして思い出し、諦め、馴染み、帰る……
この、狭くて暗い箱の中に。
違うな、私は最初から其所にいる……端末の中にいる人々が
語る「広い世界」に絶望して震えていた……この箱の中で、
ずっと。
だから目を背けて逃げている。
私は此処から出られない。
悔しい……堪らなく悔しい……。
この悔しさが憎しみに変わる前に別れを告げたんだ……。